遺言書について

日本では10パーセント程度。

 「遺言」は、故人の最期の意思表明。
 それ故に尊重されるべくものとして扱われます。
 とは言え、今際の際に、床をぐるりと取り囲んだ親族たちにに、言葉絶え絶え
 述べるというものではありません。

 「遺言」とは、本当に自分の最期をどうしたいのか、誰に何を託し、叶えて欲
 しいのかということをご遺族に明示する方法です。
 ラストビデオレターの類もよく聞く話ですが、法的効力がないため、被相続人
 たる方の意思を叶える方法として、実効力・実現力がありません。
 (もちろん任意的に意思に従うことは期待できますけれど。)
 ビデオレターは、元気なときの故人(つまり被相続人)の姿を、画像に残して
 おけるという意味においてはご遺族の方々にとってとても意義があることに
 は間違えありません。心の安息であったり、支えになることが期待されてい
 ます。

 ですが、それだけでは不十分なこともあります。
 「物心両面の幸福追求」に表わされるように精神的な充足のみならず、経済
 的満足も叶えるべく行動するのが当然のことなのです。

 では、そもそも「遺言」とは、具体的にどのようなものなのでしようか。
 民法の条文に従って、その特徴・方式を見ていくことにします。

 遺言については、民法第7章(第960条から第1027条)に定められています。

 【基本的な特徴について】
  ①15歳に達した者は、遺言をすることができる(法第961条)。
  ②遺言は、この法律(民法)に定める方式に従わなければ、することができ
   ない(法第960条)。
  ③原則、遺言は、遺言者死亡の時から効力を発生(法第985条第1項)。
   遺言に停止条件(将来発生する不確実な事実の付款(表意者の付加する制
   限))が付されている場合は、遺言者が死亡後に条件成就(不確実な事実が
   現実化)した時から効力発生(法同条第2項)。
  ④遺言者は、いつでも、遺言の方式に従ってその遺言の全部又は一部を
   することができる(法第1022条)。
  ⑤前の遺言書と後の遺言とに、抵触(矛盾)するときは、その部分について
   後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす(法第1023条)。
  ⑥遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、破棄した部分は遺言を撤回
   たものとみなす(法第1024条)。
  ⑦原則、撤回された遺言は、その撤回の行為が、撤回され、取り消され、
   又は効力を生じなくなるに至ったときであっても効力を回復しない
   (法第1025条)。
  
  未成年であっても遺言が可能なんですね。但し、方式(形式・方法)は、民法
  に定められた方式に従って行う必要があり、これに反するものは有効性を損
  なう危険があります。
  また、いつでも撤回ができますが、撤回の撤回(紛らわしい言い回しですね)
  がされたとしても効力が回復することがないので注意が必要です。

 【方式について】
  遺言は、自筆証書公正証書又は秘密証書によってしなければならない。
  ただし、特別の方式によることを許す場合は、この限りではない(法第967
  条)。

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 【自筆証書遺言(法第968条)】
  自筆証書遺言とは、読んで字のごとく、自分で筆記して書面に残す遺言の
  ことです。長所としては、いつでも手軽に作成すること、自分で作成する
  ことで費用がかからず遺言を書面化できること、何より秘密にして作成する
  ことができることなどが挙げられます。
  その反面、短所としては、変造や偽造の危険性があること、後述する方式の
  不備によって法的に効力が認められないことがあり得ること、さらに、秘密
  に作成できるため、遺言の存在を遺族の誰にも伝えぬうちに亡くなってしま
  った場合などには、せっかく作成した遺言書が発見されない、または、遺産
  分割が終わった後で発見されるなどの危険性があります。
  但し、この点については、法務局が窓口となる令和2年7月10日から新たに
  開始された「自筆遺言書保管保管制度」というサービスを使用ることで
  回避できます。(この制度については、別のページで詳しく触れます。)

  さらに、遺言書の保管者は、相続開始を知った後は、遅滞なく、遺言書を
  家庭裁判所に提出して、検認を受ける必要があります。
  保管者がおらず、遺言書を発見した場合にも同様の手続きが必要で、この
  検認を受けることせずに遺言書を開封してしまうと、5万円以下の過料に
  処せられる可能性がありますので注意が必要です(法第1004条及び第10
  05条)。

 
  以下、基本的なポイントについて分解して書き出します。
  [1]遺言者が、その全文日付及び氏名を自書し、これに印を押さねばなら
   ない(第1項)
  [2]前項の規定にかかわらず相続財産の全部又は一部の目録を添付する場合
   にはその目録は、自書することを要しないが、その目録の毎葉に署名し、
   押さねばならない(第2項)
   (毎葉、つまり自書によらずパソコンで作成した文書や表などの記載が
   両面にある場合には、その両面に遺言者が署名し、印も押さなくてはなり
   ません。)
  [3]自筆証書(第2項の自書していない部分も含む)中の加除その他変更箇所
   ついては、遺言者がその箇所を指示して、これを加除変更した旨を付記
   して署名し、かつ加除変更した箇所に印を押さねば、効力を生じない
   (第3項)

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 【公正証書遺言(法第969条)】
  公正証書遺言とは、法律の専門家であり、公証力を法律によって認められて
  いる公証人により作成する遺言書のことです。
  公証人とは、国家公務員法上の公務員ではありませんが、公証人法により、
  判事・検事・法務事務官などの経験を豊富に持つ者の中から、法務大臣が
  任免して公務を司る立場にある者のことで、法務局・地方法務局に所属して
  管轄内に役場を設け、公証事務を取り扱います。

  このような法律専門家立ち合いの下で、遺言書を作成することの長所は、
  まず、遺言の内容や方式の不備によって遺言書が無効となることがないと
  いう点が挙げられます。また、作成した遺言書の保管も安全確実で、偽造・
  変造の危険性もないという点も長所となります。さらに、遺言書作成の記録
  が残ること、先述の自筆証書遺言のように家庭裁判所での検認手続きが不要
  となることも遺族の方にとって負担が軽減され、長所となるでしょう。

  短所は、費用がかかるということが挙げられます。また、原則として遺言者
  の方が、公証役場へ出向く必要もあること、証人を2人以上用意することも
  負担と感じられる方もいるかもしれません。
  しかし、公正証書遺言と自筆証書遺言の長所と短所を比較して考えたとき
  公正証書遺言の法的安全安心という点の方が法的紛争予防の資するものと
  して、好ましい方法ではないかと考えます。


  以下、基本的なポイントについて分解して書き出します。
  [1]証人2人以上の立ち合いがあること(法第969条第1号)
  [2]遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること(法第969条第2号)
  [3]公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び使用人に読み聞か
    せ、又は閲覧させること(法第969条第3号)
  [4]遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名
    し、印を押す(法第969条第4号)
    (遺言者が、署名できない場合には、公証人がその事由を付記して署名に
    代えることができます。)
  [5]公証人が、この証書は[1]~[4]の方式に従って作成した旨の付記をして
   これに署名して印を押す(法第969条第5号)

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 【秘密証書遺言(法第970条)】
  秘密証書遺言は、遺言の内容は秘密としながらも遺言書自体の存在とその遺
  言書は紛れもなく遺言者本人のものであることについて公証してもらいた
  いというものです。
  その長所は、遺言書の作成自体は遺言者によるため、自筆証書遺言同様、
  いつでもどこでも作成することができるため、自由度高い点にあるでしょ
  う。また、その遺言書が自分のものであるということが公証される点も長
  所となります。
  短所は、費用がかかるという点、そして何より作成された遺言書の内容に
  ついては何らの公証力が働かないため、内容の不備のため効力がない危険
  性があることです。
  さらには、保管についても自筆証書遺言と同様、遺言者保管となるため、
  相続開始の際には、家庭裁判所での検認手続きが必要となります。

  以下、基本的ポイントについて分解して書き出します。
  [1]遺言者は、その証書に署名し、印を押す(法第970条第1項第1号)
  [2]遺言者が、その証書を封じて証書に用いた印章をもってこれに封印する
   (法第970条第1項第2号)
  [3]公証人1人及び証人2人以上の前に封書を提出し、自己の遺言書である
   並びにその筆者の氏名及び住所を申述する(法第970条第1項第3号)
  [4]公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した
    後、遺言者及び証人とともにこれを署名し、印を押す(法第970条第1項
    第4号)
  [5]法970条第2項(第968条準用)    遺言証書(自書していない部分も含む)中の加除その他変更箇所について
    は、遺言者がその箇所を指示して、これを加除変更した旨を付記して署
    名し、かつ加除変更した箇所に印を押さねば、効力を生じない


  少し変わった内容ですが、法第970条第1項第1号からは、遺言者は、遺言書
  を自書する必要がないということになり、自書するのは署名だけとなりま
  す。つまり、遺言書本体や目録も自書する必要がなく、パソコンや印刷物
  により作成しても、第三者による代筆で作成しても良いということです。
  
  遺言者は、その遺言証書に署名、押印したのち、封筒などに封入して糊付
  して同じ印章で封函します。
  それを公証人1人及び証人2人以上に提出して、この遺言証書は間違いなく
  自分の遺言証書である旨及び遺言証書の筆者を申述します。
  この条項から、先述のとおり遺言者が自書する必要はないという理由が導
  かれます。
  その後は、公証人が提出された日付と申述を受けたこと(遺言者の遺言証書
  に間違いないとの申述と筆者の氏名と住所)について封紙に記載します。
  そして、その封筒に①公証人、②遺言者、③④~証人2人以上らの
  最低4名が署名し、印を押して完了。

  但し、保管は遺言者の責任の下で行うことになります。

 

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