相続土地国庫帰属制度について

相続で土地や山林もらっても

 初見では舌を噛みそうになる本制度は、令和5年4月27日から法律が施行され
 た全く新しい取り組みです。関係する法律は、次の3法です。
 「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」
 「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律施行令」
 「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律施行規則」

 立法の背景には、2011年に発生した大規模地震の仮設住宅設立の際、所有
 者不明土地などの影響により、円滑に事が進まなかったなどの問題があるよう
 です。身近なところでは土地所有権の相続をしたものの様々負担が多くて今も
 これからも土地は手放したいと考える方が増加しているという事実があるよう
 です。

 例えば。ある日突然、故郷でひとり暮らしていた親御様が亡くなったとしまし
 ょう。相続の手続きをしていく中で不動産を調べてみたら、なんと故郷の土地
 建物だけではなく、自分にも知らされていない山林や荒れ果てた田畑も相続対
 象資産であることが判明したとすれば
 どうでしょうか。さらに調べてみると、山林や田畑は、祖父母名義のまま放置
 されていた。故郷から離れたところにあって、権利関係もどうなっているのか
 わからない。そもそも、故郷の土地建物は、これからのスローライフで使いた
 いけれど、自分たちが知らない土地はちょっと。。。
 

 これからは、前述の極端な事例にも似た実際の出来事も発生する可能性が高ま
 るものと思われ、国が今回の制度を創設した趣旨も理解できますね。
 実は、この事例のような場合、土地はいらないけれど、親の住んでいた土地建
 物は欲しいなどというチョイスができませんでした。
 今回ご紹介する制度がないときであれば、ひとまずすべてを相続した後に、後
 日、不動産業者に頼んで山林やら田畑の処分を考えるということになりそうで
 す。若しくは思い切って相続放棄としてすべてを諦める、という方法しかなか
 ったというのが背景にあったりしたようです。


 今回国としても初めての取り組みとなることから、本制度の対象となるケース
 はかなりシンプルに設計されています。まずは確実に実行できるスキームを設
 計し、本制度の需要の規模を把握。様々な実務上の問題点・意見等を集約し
 て、いずれ制度の改正し育てていくとのことです。

 では、情報を整理する意味でも概要を見ていきます。



 1.本制度を申請できる者【国庫帰属法第2条第1項及び第2項】
  相続または遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により土地の所有権
  または共有持分を取得した者
  ・相続人以外の第三者に遺贈された土地について、その第三者は「こんな
   土地はいらない」と考えたとしても、本制度を利用することはできませ
   ん。
  ・原則として自然人である相続人申請者となりますので法人は申請できま
   せん。但し例外的に、当該土地の共有者が自然人相続人である場合には、
   当該自然人相続人と法人が共同申請することで本制度を利用できます。

  
 2.申請することができない土地【国庫帰属法第2条第3項各号】
  (1)建物の存する土地
  (2)担保権または使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地
  (3)通路その他の他人による使用が予定されている土地として次の事項に
     記載されていることが含まれている土地
    ①現に通路の使用に使用している土地
    ②墓地内の土地
    ③境内の土地
    ④現に水道用地・用悪水路・ため池などに使用されている土地
  (4)土地汚染対策法第2条第1項に規定する特定有害物質により汚染されて
    いる土地
  (5)境界が明らかでない土地、その他の所有権の存否、帰属または範囲につ
     いて争いがある土地

  上記の何れかに該当する場合には、法務大臣は、承認申請を却下しなければ
  ならない。と定められています(国庫帰属法第4条第1項第2号)。
  簡単には、土地を引き受けてはもらえないということです。
  確かに、自分にとっては不要な土地であるとき、所有しているだけで税金が
  掛かります。維持管理のコストも考えなければなりません。
  所有者として見回って土地に異常がないか等をに気を使わねばならないです
  よね。
  ですから、明らかに上記事項の何れかに該当するのであれば、法務大臣は、
  次のステップである審査へ進めることなく、承認申請を却下をしなければ
  ならない、とあるのです。


 3.(承認申請をしても)帰属の承認ができない土地【国庫帰属法第5条第1項】 
  (1)(勾配(傾斜がある部分の上端と下端とを含む面の水平面に対する角度
    をいう。)が30度以上であり、かつ、その高さ(傾斜がある部分の上端
    と下端との垂直距離をいう。)が5メートル以上。)がある土地のうち、
    その通常の管理に当たり過分の費用または費用を要するもの    
    [読みやすくするため、一部太文字にしています。]
  (2)土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有
    体物が地上に存する土地
  (3)除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物
    が地下に存する土地
  (4)隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の管理ま
    たは処分をすることができない土地として政令で定めるもの
   囲繞地の通行妨害があるようなケースや不法に占拠されているような
    ケースです。]
  (5)そのほか、通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要
    する土地として政令で定めるもの
   ①土砂の崩壊、地割れ、陥没などの災害が発生しうる土地で、その災害に
    よりその土地または周辺の人命若しくは身体・財産に被害が生じるおそ
    れがあり、被害の拡大・発生防止のため土地の現状に変更を加える(軽
    微なものを除く。)必要があるもの
   ②鳥獣、病害虫その他の動物により当該土地または周辺の人命若しくは身
    体・農産物または樹木に被害が生じるおそれがあるもの(軽微なものを
    除く。)
   ③適切な造林・間伐や保育が実施されておらず、追加的に実施する必要が
    あるもの
   ④所有権が国庫に帰属した後に、国が通常の管理に要する費用以外の費用
    に係る金銭債務を負担することが確実な土地
   ⑤所有権が国庫に帰属したことに伴い、国が法令の規定により当該金銭債
    務を承継するもの
  
   上記の何れにも該当しない場合には、法務大臣は、承認申請を承認しなけ
   ればなりません(国庫帰属法第5条第1項)。
   何れかに該当してしまうと、法務大臣は承認をしない、つまり不承認の
   処分をすることになります。
   申請者にとっては、不利益の行政処分ですね。
 
   総じると、法務大臣による「承認申請の却下処分」も「承認申請の不承認
   処分」も何れについても行政不服審査法による不服申し立て手続きが可能
   です。とは言っても、実際のところは、申請窓口である各地の法務局・地
   方法務局(何れも本局となります。)の担当官との綿密な打ち合わせが重
   要です。

 
 4.申請窓口等
  国庫帰属法では、「法務大臣に提出しなければならない。」となっています
  が、国庫帰属法施行規則第1条では、承認申請に係る土地の所在地を管轄す
  る法務局又は地方法務局の長(以下「管轄法務局長」という。)に対して行
  わなければならない、とあります。

  気をつけなければならないのは、承認申請の対象となる土地を管轄する法務
  局または地方法務局の担当窓口への書類提出となっていることです(仮に承
  認申請の対象土地が管轄を跨いで存在しているような場合には、何れかの管
  轄法務局に提出する。)。
  各支局や出張所では、今のところ受付できません。
  また、始まったばかりの制度ということもあり電子申請も受け付けてはいま
  せん。必ず申請者本人または法定代理人(成年後見人など)が来庁のうえ、
  担当の窓口で提出するか、書類一式を書留郵便またはレターバックプラスに
  よって、郵送しなければなりません。
  承認申請の手続代理が認められているのは法定代理人だけです。

  但し、弁護士・司法書士・行政書士は、申請者本人に代わって申請書類の
  作成を代行することができます。


 5.審査期間
  承認申請を受理されたのち、帰属の決定までには、半年から1年ほどを要し
  ます。この期間には、却下や不承認の決定のための判断期間も含まれます。
  やはり、始まったばかりの制度のため時間が掛かるということを理解し、
  手続き等についての情報収集であったり、現地調査を行うなど準備をおこな
  いつつ、担当法務局の窓口で相談を行う必要があります。


 6.その他
  この点は申請を検討されている方にとっては重要かと思います。
 (1)審査費用が必要です。
   ・土地一筆当たり金14,000円が掛かります。(印紙)

 (2)負担金が必要です。
   ・無事に審査が完了し、国庫帰属の承認決定が下りた場合、負担金の通知
    と納入告知書の送付があります。負担金とは、自分にとって不要な土地
    を国が引き取ることになりますから、今後は、税金で係る土地を維持管
    理していくことになります。このため、帰属することとなった土地の維
    持管理に必要な10年分の費用を、土地の所有者の方に負担していただ
    くものです。
    気になる金額は(大雑把な説明ですが)、面積にかかわらず
    最低200,000円です。
    但し、一部市街地にある宅地の場合には、面積に応じた計算により算出
    された金額となりますし、田畑も一部例外を除きほぼ同様です。
    なお、森林では面積に応じて計算された金額を負担していただきます。
    その他詳しいことは、最寄りの法務局(地方法務局)本局や行政書士、
    弁護士、司法書士に確認してみてはいかがでしょうか。

  

とよひら行政書士事務所
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